2009年1月10日土曜日

THE RAKE´S PROGRESS

すっかりROBERT LEPAGEファンになってしまった私.1月11日のマドリッド公演を前にした9日の最終リハーサルの招待を受ける幸運に恵まれました。会場にはアルモドバー監督をはじめとした、現代のスペインのカルチャーシーンをリードする有名人達の姿が目立つ、期待の多いリハーサルという印象.
RAKE´S PROGRESSは, William Hogarth の同名の作品に魅了されたStravinsky の作曲にW.H.Auden,Chester Kallmanの台本で成るオペラ作品。ロシア生まれのストラビンスキーは渡米後の1947年、シカゴ美術館で18世紀の画家W.H.の展覧会観る機会に恵まれ、そこでインパクトをうけた作品RAKE´S PROGRESSと同名のオペラに取りかかり、51年には初演にこぎ着けている。確かに、8枚からなるこの作品、風刺的要素も強く,題材は興味を引くもの。とは言っても、この作品からはインスピレーションをうけたという方が正しいかもしれない。実際のオペラはどちらかというと、ファウスト的で、実際の絵画からの物語をそのまま取り扱ったというより、永遠の価値観を語る寓話の要素が濃い。新しい発見を求めて、もともと知識の深い絵画や書物と深く関った彼は、他にもピカソやコクトーなど当時の先端をゆくアーチスト達ともコラボレーションしていたらしい。
前置きはともかく、この公演の素晴らしさは,何といってもROBERT LEPAGEの演出。原作では18世紀のロンドンが舞台なのに反し、こちらの舞台は50年代のアメリカ.全く奇をてらってかのようですが,実際のところ、台本が書かれたのも50年代のアメリカで、ROBERTはそんなところに目を付けたのでしょう.彼らしいあっと息をのませる効果も様々で、特にサテンのベットに沈み込む二人がそのまま床に吸い込まれてしまう場面や、DAVID HOCKNEYを思わせるプールサイドのシーン、背景にビデオを使用した舞台設定など、シンプルで簡潔ながら小手の利いた仕掛けも楽しめました.話の筋も、悪魔との取引で、正体知れぬ叔父の遺産を相続することになり金持ちになった男が、恋人のことも忘れ、ギャンブルや女に札束をばらまき放蕩し、最後にやっと本当の愛に目が覚めるが、悪魔の呪いで気が狂ってしまうというものなのですが、放蕩のさなかに見境なく結婚してしまう相手の女が現実離れした巨大な鬚女で、体中に毛が生えまくっているのには爆笑してしまいました。しかし、実際このヒゲ女というもの、20世紀前半の見せ物に実在したという話。
事前学習として,ネット検索でサンフランシスコ公演やロンドン公演に関する記事を読みましたが、その辛辣さはよく知られているとはいえ、ロンドンの記事にはかなりひどいものがいくつかありました。
ストラビンスキー自体、難度の高い作曲家であるだけでなく,ロンドンからラスベガスへの舞台の移転や、ホックニー的な描写も彼らには枠外で理解出来なかったのでしょうか。
テノールに関する批評はひどいものでしたが、マドリッド公演ではTOBY SPENCERが取って代わり、ルックス,歌唱とも満足なできばえでした。その他の歌手達も、役柄に合わせてオペラ歌手にしてはスレンダーでフットワークも軽い歌手も多く、現代的でフレッシュなイメージでした。そんな中でANNE役のMARIA BAYOの容姿が、他の歌手ほどそぐわないような気がしました。歌声はばっちりでしたが。
全く...ROBERTの世界に,興奮し尽くした夜でした.

付け足しですが、初日を待たずに最終リハーサルの次の日の朝にケベックへ向う予定だった彼ですが,あいにくの雪に見舞われて(マドリッドは雪になれていないため、2/3cmの雪でも大混乱します。)一時空港が閉鎖に。予定の変更を危惧していたところでしたが、結局再運行することになり無事に飛び立ちました。カナダになれている彼のこと.”これっぽっちの雪ごときで.”と感じたことでしょう。

TEATRO REAL ,マドリッドにて。


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